公開
本間チョースケの独断と偏見で巡るイタリアワイン紀行 | vo.2 『バローロ』

UNCORKを運営するワイン専門商社 株式会社モトックスには、なんと、あの国内外で人気のワイン漫画のキャラクター 本間長介のモデルとなった社員 本間チョースケ が在籍しています。こちらの特集では、本間チョースケが「素晴らしい品質でもっともっと多くの人に飲んでもらいたい!」と思うおすすめの推しワインをご紹介。実際にワインを1本ずつ飲み、改めて向き合って感じた熱い思いとおすすめポイントを直球勝負でお届けします。
本間チョースケ プロフィール
本間 敦(ペンネーム:本間チョースケ)
イタリアワインライター
(社)日本ソムリエ協会公認 シニアソムリエ、SAKE DIPLOMA
渡伊50回以上を数え、ワイナリー200社以上を訪問。執筆活動を通じてイタリアワインの魅力を伝える。
専門誌、一般誌でのコメント掲載多数。また、ワインの普及活動の一環として全国各地で講演活動を精力的に実施。
本間 敦(ペンネーム:本間チョースケ)
イタリアワインライター
(社)日本ソムリエ協会公認 シニアソムリエ、SAKE DIPLOMA
渡伊50回以上を数え、ワイナリー200社以上を訪問。執筆活動を通じてイタリアワインの魅力を伝える。
専門誌、一般誌でのコメント掲載多数。また、ワインの普及活動の一環として全国各地で講演活動を精力的に実施。
今回のテーマは、バローロ
今回、取り上げるのはピエモンテ州が誇る銘酒、バローロである。 バローロと聞けば、力強さや厳格さ、あるいは長い熟成を経てようやく花開く偉大なワイン、そんなイメージを抱く方も多いだろう。――無論、それも間違いではない。だが、その真価は、単なる重厚さや威厳だけでは語り尽くせない。そこにあるのは、熱き魂を内に秘めながらも、グラスの中ではあくまで端正に、そして優雅に振る舞う美しさである。今回は、そんなバローロの魅力を、アゼリアという生産者を通して辿ってみたい。
その前に、まずはこの地を知るための基本的なポイントを、おさらいしておこう。バローロ、そしてアゼリアについて理解するためにかなりしっかりと解説しているので、少々アカデミックかもしれない。この特集で語り切れなかった 「バローロ・ボーイズとは」 「バローロの生産地区」については、別の読み物にしているので、より詳しく知りたい方はそちらも併せてご覧いただきたい。
忙しい人は要点をまとめた「おさえておきたいポイント」を各章の最初に用意しているので、そこだけを辿ってからおすすめワインをチェックするのがおすすめだ。
ピエモンテ州のワイン
ピエディ(=足)、モンテ(=山)という州名のとおり、アルプス山脈の麓に広がるのがピエモンテ州である。国境は北をスイス、西をフランスと接し、フランス・サヴォアのサヴォイア王家が辺境領としてこの地を治めていたことから、今なおフランス文化の影響が色濃く残っている。
銘柄としては、代表格であるバローロ、バルバレスコに加え、同じネッビオーロ種から造られるロエロ・ロッソも存在感を増しているし、アルネイス種から造られる白ワインの人気も高まっている。 また、かつて日常酒と見なされていたバルベーラ種、ドルチェット種の赤ワイン、さらにはアスティ県で造られるモスカートの甘口微発泡も、その品質向上は見逃せないところだ。
アゼリア -内に秘めた情熱をエレガンスに代えて-
アゼリアの軌跡
1920年の創業当時、このワイナリーは創設者の名を冠し、「カヴァリエーレ・ロレンツォ・スカヴィーノ」を名乗っていた。ちなみにカヴァリエーレとは、農業その他の分野で特に功績のあった人物に対し、イタリア共和国大統領から授与される称号『労働の騎士』を意味する。その後、二代目アルフォンソ・スカヴィーノを経て、その息子である三代目ロレンツォ・スカヴィーノは、ピエモンテに古くから残る「ワイナリー名は所有者名を冠する」という慣習を捨て、1974年、ワイナリー名を「アゼリア」とすることを決意した。 その名は、ワイナリーに隣接する小さな土地に由来する。かつてそこには、この地方のブドウ畑でよく見られた、ひなげしに似た小さな花――アゼリアが咲いていたのである。
そしてラベルに描かれている2羽のクジャク。これもまた、この土地の記憶と深く結びついている。1920年、このワイナリーが設立された当時、敷地内では多くの動物が飼育されており、その中に美しいクジャクがいたことに由来する。キリスト教においてクジャクは不死の象徴とされ、かつてローマ人によってイタリアにもたらされたという。現在でもクジャクはワイナリーで飼育されている。
四代目であり現在のオーナーであるルイジ・スカヴィーノは、バローロ生産域内に位置するグリンツァーネ・カヴール村の農業技術専門学校(Istituto Tecnico Agrario)でブドウ栽培と醸造学を専攻した人物である。卒業後に家業を継いだが、それ以前からワインへの愛着は並々ならぬもので、毎夏、父の手伝いとしてワイナリーで働いていたという。 現在は五代目となるロレンツォも参画している。三代目と同じ名だが、イタリアでは名が隔世で受け継がれることは珍しくない。今ではルイジの監督のもと、息子ロレンツォが主体となって栽培と醸造を担っている。
バローロ・ボーイズとアゼリア
アゼリアは1999年に『バローロ・ボーイズ』(現在、この団体そのものは存在しない)のメンバーに加わったが、その後脱退している。『バローロ・ボーイズ』については、詳しくこちらのページで述べているので、ぜひご一読いただきたい。かつてはグリーンハーヴェスト、ロータリー式発酵タンク、バリック樽熟成など、革新的な技術を積極的に取り入れていたが、現在のアゼリアは、伝統派の長所と新しい技術を実に巧みに組み合わせながらワイン造りを行っている。
例えばロータリー式発酵タンクは、早飲みタイプのドルチェットやバルベーラにのみ使用。2013年ヴィンテージ以降、バローロの発酵は伝統的な木樽発酵槽へと戻され、熟成も小さなバリックではなく、外側にニスを塗らない特注の大樽で行われるようになった。これは、伝統的な大樽に比べて通気性が高まるためである。
ちなみに、これは覚えておいて損はないのだが、旧バローロ・ボーイズのメンバーは、ほぼ例外なく「バローロ・ボーイズ」という一括りで語られることを好まない。現在では生産者ごとに栽培や醸造のアプローチは大きく異なるからである。ひとまとめにしてしまうのは、少々乱暴というものだろう。
アゼリアの哲学
アゼリアは自社で栽培したブドウのみを用いてワインを醸造する。よく見られるような契約農家からのブドウ購入は一切行わない。自社栽培であるからこそ、ブドウの品質を確実に把握できるからである。また、非在来種は一切植えず、ピエモンテ州の在来種であるドルチェット、バルベーラ、ネッビオーロのみを栽培する。白ブドウは植えず、赤ワインの醸造に専念している。
土壌については2年ごとに分析を実施。有機肥料は必要な場合にのみ使い、化学肥料は一切施用しない。その代わり、有機物を増やす目的で数年に一度、堆肥を用いる。
さらにブドウ樹の列の間には、自生する草やカヴァークロップ(被覆草)を生やしている。これにはいくつもの利点がある。
第一に、草は土壌の侵食を防ぎ、土壌が湿っているときでも畑での作業を可能にする。 第二に、草の根が表土を柔らかく保ち、通気性を高めることで、雨水の排水を促す。 第三に、ブドウ樹と周囲の自然植物との間に自然な競争関係を築く。
ルイジは、果実の熟成をより均一にするため、ブドウ畑でのグリーンハーヴェストをいち早く導入した生産者の一人でもある。房が色づく前、まだ緑色の状態のうちに間引きを行うのだが、残す房の数はランゲ・ネッビオーロで5~6房、バローロで4~5房、ブリッコ・フィアスコでも4~5房と、かなり少ない。
すべての発酵はステンレスタンク内で天然酵母によって行われる。自ら栽培し、完璧なブドウのみを選抜しているため、果皮まで健全であり、発酵の問題は一切発生しない。発酵トラブルは、ブドウが健康でない場合にのみ起こる――その考えは実に明快である。 そしてセラーにおいて唯一すべきことは、出来上がったワインを傷つけないこと。例えば、ろ過や清澄といった工程は、ブドウ本来の色や香りの多くを失わせてしまうため、アゼリアでは一切行っていない。
アゼリアの畑
バローロを生産する村は全部で11ある。これについても別ページで解説しているので、ご興味があればご一読いただきたい。アゼリアは、カスティリオーネ・ファレット、セラルンガ・ダルバ、モンテルーポ・アルベーゼという3つの村にブドウ畑を所有しており、現在、所有するクリュは以下の5つだ。
■ブリッコ・フィアスコ(カスティリオーネ・ファレット村)
■サン・ロッコ(セラルンガ・ダルバ村)
■マルゲリア(セラルンガ・ダルバ村)
■ヴォゲラ・ブレア(セラルンガ・ダルバ村)
■チェレッタ(セッラルンガ・ダルバ村)
要チェックなクリュ | ブリッコ・フィアスコ
『フィアスコ』とは、かつて赤ワインを入れるために使われていた、独特の形をした古いフラスコ瓶を意味する。丘を意味する『ブリッコ』の最も高い部分を所有していること、そしてこの丘そのものが丸いフラスコのような形をしていることから、この名が付けられた。
平均樹齢は75年以上に及び、ルイジの父、ロレンツォによって植えられた。古い樹を持つことは極めて重要だ。自然と収量が少なくなり、実は小粒になるものの、その分凝縮し、なおかつ成熟の均一性が格段に高まるからである。さらに、古い樹は根が土壌深くまで伸びているため、暑い夏における水分不足の影響を受けにくく、若い樹よりも丈夫で、病気への耐性も高い。
アゼリアでは、ブドウ畑全体を一度に植え替えることは決してしない。例えば樹が枯れたなら、その1本だけを植え替える。これこそが、古木の比率を高く保つ唯一の方法なのである。]
さて、ここからは実際のワインを一本ずつご紹介していこう。――アンディアーモ(さぁ、いこう!)!
おすすめワイン その1
桑田真澄氏愛飲のワイン
バローロ・ブリッコ・フィアスコ 2019
一昔前の映画の名セリフになぞらえるなら――
『エレガントでなければ生きてゆけない。優しくなければバローロの資格がない。』
まさにそんな一本である。
色調は淡いローズレッド。尽きることのない花のアロマに、チェリーやカシスを思わせる赤果実のアロマが交錯する。口当たりは柔らかく、たおやかで、極めて自然なタッチ。タンニンの粒子は細かく、そして優しい。アフターには瑞々しくフレッシュな余韻が伸びていく。 ただし、現時点ではまだややクローズ気味である。今飲むのであれば半日前の抜栓、あるいはデキャンタージュが必要だろう。あと2~3年は待ちたいところだ。 (2026年3月試飲)
なお、このワインは日本ソムリエ協会名誉ソムリエであり、元ジャイアンツの桑田真澄氏愛飲のワインでもあり、毎ヴィンテージをケースで求めている。
ワイナリーを訪れた際、おそらく1000回以上は聞かれているであろう愚問を、あえて私は投げかけた。
「フィアスコに関して、パオロ・スカヴィーノとのスタイルの違いは?」
ルイジは静かにこう語った。
「姻戚関係ではあるが、彼らのワインについて自分は論評する立場にない。」
実に見事な返答である。ひとつのクリュであっても、その表現は実にさまざまだということだ。
※パオロ・スカヴィーノはアゼリア二代目アルフォンソ・スカヴィーノの弟。同じく、このクリュを分割して所有している(パオロ・スカヴィーノは『バローロ・ブリック・デル・フィアスク』という名でワインをリリースしている。)
おすすめワイン その2
よどみのないエレガンスを備えたワイン
バローロ 2021
グラスからは、咲き誇るさまざまな赤い花々の香りが立ち上がり、チェリーやベリーを思わせる愛らしい果実味が口いっぱいに広がる。飲み口は実に自然で、なんのストレスも感じさせない。 一点の曇りも、緩さも、バランスの悪さも微塵も感じさせない、よどみのないエレガンスを備えたワインである。
以前、ワイナリーを訪れた際、私はルイジにこう尋ねたことがある。
「なぜこのバローロは、若いうちからこんなに美味しいのか?」
すると彼は悪戯っぽく笑いながら、こう返した。
「初めから美味しくないと、年月が経って本当に美味しくなるか不安になるだろう?」」
まったく、その通りである。 (2026年3月試飲)
さて、今回はこのあたりで。
またグラスを片手に、お会いしましょう。Ciao Ciao --チャオチャオ!











